ミラの独白



 玄界(ミデン)への遠征を終えて、アフトクラトルへ戻ってきたミラは珍しくため息を一つついた。

今回の遠征は最善ではなかったが、一応目的は達成できた。

しかし、思いがけない事態ばかり起こり、重要なところでトリオン切れを起こしてしまった事は対策を練らなければいけない。

そして、エネドラ。

あれだけ脳に影響が出ている状態だったので、あそこで切り捨てるのが最善だったと、遠征に出る前から思っていたし、だからこそ躊躇いもなく切り捨てたのだが、今になって自分にしては珍しく思い出したのだ。

ミラは幼少期から窓の影(スピラスキア)に適合し、使いこなしてきた為に、周りには対等な存在など数えるほどしかいなかった。皆が遠巻きにミラと接する中で、エネドラは最初から偉そうに接してきた。

新参者で、年下のくせに偉そうに接する姿は、はじめは癪に障ったが、彼もまた(ブラック)トリガーを自在に使いこなす強者であり、その存在を認めざる負えないほどだった。

互いに声には出さないが、気に食わないと思いながらも認め合っていたのだ。

だからエネドラが居なくなって、どこか腑に落ちない様な、上手くはまっていない様なそんな気がするのだ。

「ミラ、後悔しているのか?」

 いつの間にかミラの隣に現れていたハイレインはそう静かに問いかけた。後悔?そんなものではない。それだけは分かる。

「後悔などしていませんよ、ハイレイン隊長。私は私のすべき仕事をしました」

そう、何度同じ場面を繰り返しても、必ずああすると自分で分かっている。

「そうか。珍しくミラが対等に話す相手だったからな、そう思っているのかと思ったのだが、勘違いならいい」

誰と一度も互いに言っていないのに、やはりハイレインはミラの思っていることが分かっていたようだった。ハイレインともかなり長い付き合いになるのだから、それくらいばれていても当然だろう。

けれど、そんな些細なことを気にしている様な場合ではないし、そんな事を考えられる立場でない事をミラは忘れてなどいない。

「大丈夫です、次こそは上手くやります」

「そうか、期待している」

 そう、私には過去を振り返っている時間などないのだから。

 彼は、私にとって、すでに、過去の人。