それは、いつか未来の幸せなお話

 

自分の誕生日をこれ程までに待ち遠しく思う事が出来るなんて、過去の自分からしたら想像できないだろう。

もちろん昔だって兄や友達が祝ってくれていた。

だからいい思い出だってある。

それでも少し気後れの様なものもあって、嬉しいけれど素直に受け取れない、そんな複雑な感情が存在していた。

だけれど、ある時から大切で楽しみな日になったのだ。

それは多分自分の中で新たな感情が芽生えたからで、大切な人が出来たからだと思う。

昔は自分の所為で他の人に迷惑をかけるのではと、そんな事ばかり考えていて自分の事は自分で解決したかったし、

自分が犠牲になる事で親しい人が幸せになるのならばそれが最善だと思っていた。

だけどそれが間違いだと教えてくれた人がいた。そんな事をして喜ぶ訳が無いと。

相手を大切に思う事、自分を大切にする事、そういう事を教えてもらった。

初めは信頼とか尊敬とかそういう漠然としたものだったのだけれど、

それは次第に身を焦がすような想いに変わって、それを自覚して、そして分かったことがある。

私の一番はこの人なのだと。



* * *



「千佳、用意出来たか早く来いと宇佐美たちが急かしてる」

「あ、はい。大丈夫です」

 

毎年誕生日は玉狛支部でお祝いする事になっていた。

初めての誕生日の際は事前に伝えて無かった為に、当日に…とはいかなかったのだが、

お祝い事はみんなでするという方針の様でそれは誰の誕生日の時でも変わらない。

最初こそ申し訳なさが先立ったが、みんなで楽しくしているところは好きなので素直に受け入れる様になれた。

 

「そうだ、誕生日プレゼント別のものも用意していたんだった」

「そんなに沢山もらえません…」

「これはお前の為に用意したものだからな、その役割を全うさせてやってくれ」

「はい」

 

そう言われて渡された可愛くラッピングされた包み。

これから出かけるという事だしどうするべきかと考えてしまう。

中身は気になるが、みんなを待たせているとも思う。

 

「開けてみてくれ、今から必要になると思うからな」

「そうなんですか

 

そんな風に言われば開けないはずがない。

中身はなんだろうとワクワクしながら開いた包みの中からは白くてふわふわした手袋が出てきた。

昔貰ったケープと似た可愛らしくて暖かそうな防寒具だ。

だから今開けてくれと言ったのだろう。

 

「こんな素敵なものありがとうございます」

「毎年この時期は寒いからこんなものしか思いつかないんだが…喜んでくれて良かったよ」

「レイジさんが選んでくださったものを喜ばない事なんてないです」

「そうか」

 

一言ぽつりと返された言葉には照れの様なものが隠されていて、

そんな顔を見る事が出来るのが自分だけである事に嬉しさを感じる。

せっかく貰ったものなのでさっそく手にはめてみた。

柔らかくて暖かいその心地から良いものなのだと分かる。

嬉しくて何度も手元を見直したとき、あっと一つの事を思い出して右手の手袋を外す。

 

「…どうした気に入らなかったか」

「そんなことあるはず無いです。とっても気に入りました」

「ならどうして今手袋を外した」

「だって…」

 

ちょっと言葉にするのは恥ずかしくて躊躇う様に言葉を途切れさせてしまうが、

それでも言わなくては伝わらないし、何より不安げなその顔を見続けたいとは思わなかった。

 

「だって、手袋をしたままだと手を…、手を繋いだ時にレイジさんと触れ合えないから」

 

素直な気持ちを伝えるのはまだ少し恥ずかしい。

でも、ちゃんと言えた。

 

「そ、そうか」

 

私の言葉を聞いて、その意味を受け止めて、レイジさんは先ほどよりもさらに照れている様だった。

私も頭から湯気が出ているかもしれない。

 

「そ、それじゃあ待たせるのも悪いから行くか」

 

そう言ってちゃんと私の素手になっている右手をしっかりと握ってくれたから、

それが何よりの誕生日プレゼントだと思った。

どれだけ年を重ねても差の縮まないレイジさんの大きな手が大好きだった。

優しく包み込んで私を導いてくれるその手。

優しく握ってくれて、でもしっかりと話さないという意志が感じられるからかもしれない。

この手に包まれると、自分でも驚くほど触れ合ったその場所は熱を帯びて、手袋なんて必要ないくらい熱くなるのだ。

それは多分いつになっても変わらない事だと思う。

そんな日々が続くことがとても幸せな事だと、私は思った。