姫百合の しらえぬ恋は

※国近→月見表現を含みます。

 サンプルには含まれませんが、R18表現を含みます。


 太刀川隊は隊結成後、一年も満たない期間ですんなりとA級に上がった。国近はその隊結成時に憧れの先輩である月見の紹介で太刀川隊のオペレーターとして配属された。つまり太刀川や出水との関係もまだ一年に満たない。それにしてはずいぶんと急激に仲良くなったとは思う。

 それも多分三人とも似たような性格だからかもしれない。こんなこと言うと出水には怒られてしまいそうだが、結局のところ楽しければ良いという適当で自由なメンバーの集まりだった。

 A級に上がって、隊室が広くなったことも仲良くなった事の一因かもしれない。太刀川も国近も界境防衛機関運営のアパートに一人暮らしをしているため、設備の充実した隊室でも家でもさほど差が無く、ならば誰かいる隊室の方が居心地が良いと、長居するようになったからだ。必然と一緒に居る時間も長くなり、打ち解けた様な気がする。国近が設置した据置型ゲームの効果もあるかもしれない。

 そういうわけで、この日もごろごろと隊室でゲーム三昧の一日だった。学校が終わったあと本部での用事があったからこちらに来ていたが、用事が終わったあとずっと隊室に居たが、今日は太刀川隊は非番だったので他の隊員は誰も来ること無く夜の時間帯に突入していた。

 こんなことなら早く家に帰ってしまえば良かったのだが、なんとなく帰るのが面倒だったことと、やっぱり隊室に来ることになれてしまっていたのだ。

 どうせ明日も防衛任務で来なければいけないし、このまま止まってしまおうと思った。着替えも界境防衛機関支給の服が予備で置いてあるし、ご飯についても小腹が空いた時用のカップ麺のストックもある。A級に上がって隊室に給湯室がついて、さらにそういう私物が増えた。食べたゴミがそのままになっている事もあったりして困る事もあるが、最終的に業者を頼めば綺麗になるので誰も指摘したりしない。

 隊室に泊まるにあたって、先にシャワーを浴びてきてしまおうとこれまた置きっぱなしにしているお泊りセットを探し出す。本部にはシャワーも完備されているのは便利だ。もともと生身を鍛えるためのトレーニングを行った後に汗を落とす為の施設として設置されているシャワールームだが、泊まり込みの人が活用する方が増えてきている様だ。

 着替えとお泊りセットを手にして、いざシャワーへと思った時に隊室の扉が開く音がした。誰か来たのかと思って、国近の私室となっている小部屋から顔を出すと、太刀川がちょっと疲れた顔をしてソファーに座っていた。いや、寝転がっているのかも。

「太刀川さん~」

「うおっ…国近まだ居たのかよ」

 近くまで寄ってから声を掛けると、やっと気が付いたように驚いた。

「ん~、なんか帰るの面倒になっちゃって。明日休みだし、家もここも変わんないし」

「そーかもしんねーけど、そういうことすると俺が怒られんだよ」

「そういう太刀川さんだって遅い時間なのにここ来てるじゃん」

「んまぁ、そうだけど」

 未成年の隊員の泊まり込みに関して厳しい所がある。対応としては普通なのだが、隊員の多くが未成年であり、夜の時間のシフトもあるのだ。少しくらいいいじゃないかとは思う。高校生であれば普通にバイトで遅くなったり、友達の家に泊まったりなど日常的にあるのだからもう少し寛容でもいいと思うのだ。まあ、そこまで細かく監視されているわけでは無いので、結局はバレなければいいのだ。

 太刀川もそれ以上何か注意する事も無く、というかそんなこと今はどうでもいい様で、疲れた様にソファーに埋もれながらため息をついていた。

「なになに、どうしたの

「あ~、さっきまでダチとつるんでたんだけど、彼女がどうこうって話になって

「見栄張っちゃったって

「なんで分かんだよ」

 ため息の理由はなんてことは無い。売り言葉に買い言葉、乗せられたら引けなくなる太刀川の性格から、見栄を張って彼女くらい居ると言った事は容易に想像出来た。

「太刀川さんがわかり易すぎなだけだよ~」

「界境防衛機関ならモテるだろ、とか言われたら乗るしかないだろ」

 さも当たり前かの様に太刀川は言うが、国近からするとあんまり理解出来ない。太刀川が見栄を張りたいのは分かるが、言った友人も太刀川に彼女が居るなんてこれっぽっちも思っていなくて、ただ単純に悪ふざけで言ったのだろう。というかこの戦闘バカが彼女との時間を持ち得るはずが無いのだ。

「そういうもんかな~

「嵐山はめっちゃモテる」

「えー、そこと比べるのはおこがましいでしょ」

「なんだと」

 嵐山がモテるのは周知の事実だ。広報としての活躍も生まれ持った顔の造形もモテる一因であるが、それ以上にあの性格がモテる最大の理由だろう。誰にでも優しく、さわやかでダメなところなど無いのだ。異性に対してそこまで興味のない国近でもうっかり格好いいと思ってしまうタイミングがあるくらいなのだ。

 太刀川もまあ、モテない事も無いとは思うのだが、なんというか誰からも人気という訳ではないだろう。強いて言えばしっかりした女性もっと言えば年下のダメ男が好きな女性からは人気がありそうな風である。結局同世代にはそう言った趣味の人は居ないだろうから、モテないと同義ではあるが。

「んで、どうするの

 周りに奇特な趣味の女性が居ないからこんなことになっている訳で、それならば誰かに代わりを頼んで見栄を張るしかないのだろうけど、そこまでするのかと思った。のだが。

「気が進まないけど、月見に土下座するしかないよな…。あいつ見てくれは良いし、あそこの女子高は人気だからな。とはいえ見返りが怖い」

「蓮さんに頼むんだ…」

「間違っても加古には頼まねえよ」

 打倒ではあると思う。幼馴染でそういう頼みごとも言いやすいだろうし、太刀川が言った通り見た目も外聞も申し分ない。才色兼備であり、大和撫子という言葉がよく似合う同性からも憧れの的であるのだから。

 けれど、国近は嫌だと思った。だって、国近も彼女に憧れて好意を寄せている一人だから。しかも好意なんて生ぬるいものじゃなくって、本気で好きで仕方がないくらいの感情だ。

 多分あまり理解されることは無いだろうと自覚しているし、だから誰にも伝えていない。月見にさえも、ただの懐いてくる後輩程度の認識から外れない様に接している。そのこころに秘めたものがなんだとしても。

 好きで好きでたまらないから、そんな風に見栄の為に彼女を使ってほしくなかった。

「それ、私が頼まれてあげようか

「は…


(続く)